さぶろぐ

ぬいぐるみサンショウウオ「さぶ」たちの、旅と日常の記録です。

「山椒魚戦争」文学の中の山椒魚

全国のオオサンショウウオ好きが集う団体、「日本オオサンショウウオの会」をご存じでしょうか。

https://www.giantsalamander.net/

オオサンショウウオの保護活動や研究調査をしている人たち、動物園や水族館でオオサンショウウオ飼育に関わる人たち、そしてオオサンショウウオが暮らす河川の工事や行政にかかわる人など、様々な立場の「これからのオオサンショウウオとの接し方を真面目に考える人たち」が、気軽に情報交換できる場となることを目的として発足された会です。

学会などとは違い、これからのオオサンショウウオとの接し方を真面目に考える人であれば、学者さんや飼育員さんじゃなくても、一般のオオサンショウウオファンでも入会できる素敵な会。ちなみに年会費は1000円です。

2013年夏に京都水族館オオサンショウウオという生き物に一目ぼれして以来、各地の水族館や動物園でオオサンショウウオがいれば必ず見たり、両生類の図鑑を買って眺めたり、近所の東山動物園のオオサンショウウオを毎週のように見に行ったりと、夫とふたりだけでオオサンショウウオを愛でていたのですが、

古生物好きの妹(イラストレーター・恐竜倶楽部会員)に、「オオサンショウウオにはファンクラブとかないのかな?」と言われて探してみるうちに、2017年秋、たどり着いたのがこの会でした。

日本オオサンショウウオの会は、毎年10月ごろに「全国大会」を開催しています。

#ちなみに2020年は、10/16~18、兵庫県朝来市での開催が決まっています^^詳細は夏ごろ発表とのこと!!会員じゃなくても参加できるし、当日会場で入会手続きすることもできますよ😊

私は2017年、鳥取県南部町での大会に初参加し、2018年の琵琶湖大会では初めての物販ブース参加をし、そして2019年、岡山県真庭市での大会では物販に加えて、念願のポスター発表をさせていただきました。テーマは以前から温めていた「文学の中の山椒魚」。物語に登場する山椒魚といえば、教科書にも載っていた井伏鱒二の名作を思い浮かべる方も多いと思いますが、オオサンショウウオが出てくる小説、実はほかにもあるんです。今回取り上げたのはチェコの大作家カレル・チャペックの長編SF傑作、「山椒魚戦争」です。

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山椒魚戦争」ポスター発表

数年前、オオサンショウウオのファンになったばかりの私に「面白いぞ」と父がくれた一冊の本。それが、チェコ語からの完訳版「山椒魚戦争」岩波文庫でした。
物語の舞台はチャペックが生きた、第二次世界大戦前の、ナチスが台頭してきた時代です。

南海の秘境でオランダ商船の船長に発見された架空の海生山椒魚「アンドリアス・ショイフツェリ」が、素直でおとなしい性質と高い知能によって人間の文明社会に適応し、人間の労働を肩代わりするようになっていきます。各国の人間たちは互いに牽制しあいながら山椒魚を利用して自国の利益を拡大しますが、やがて数が増え過ぎた山椒魚たちは、棲む場所を求めて、人間の住む陸地を沈め始めます…

この作品は1936年に発表され、その2年後には作者チャペックが病死、翌年1939年に第二次世界大戦がはじまると、チャペックの祖国チェコを侵略したナチスによって発禁処分となります。ナチスをはじめとする民族主義を風刺する内容だからです。
そのような状況で、自身の身を危険にさらしながら(現にチャペックが亡くなったことを知らずにナチスは真っ先に彼を逮捕しに自宅まで来ていますし、カレルの兄である画家ヨゼフ・チャペックは強制収容所で亡くなっています)書かれたこの作品。

緊迫した時代に書かれた終末物語でありながら、この物語には全編を通して、何とも言えないユーモアと悲哀と愛らしさがあふれていて、私にはその理由が、主人公がほかならぬ「人間サイズの山椒魚」であるからだとしか思えないのです。

山椒魚のかわいいシーンに萌えるだけでも読む価値のあるこの小説を、オオサンショウウオの会に来場する皆様に、かわいいオオサンショウウオシーンだけでもみてほしい…そして数々の名シーンをイラストにしてもらうことはできないだろうか……
そんな思いでイラストレーター・彩乃さん(妹)に持ち掛けたところ快諾していただけて、かわいいシーンのイラスト入りの素敵な布ポスターが完成しました!!!!!イラストをもっと大きく見たいですか?…ですよね!!!!!!

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1.ヴァン・トフ船長、謎の山椒魚にひとめぼれ

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2.飼育員に新聞を読み聞かせる動物園の山椒魚

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3.謙虚な大学者、シャルル・メルシェ博士(山椒魚

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4.直立する高貴な北方山椒魚

 

物語そのものは、前述したように、架空の山椒魚に人間の姿を演じさせて描いた終末SFで、その後の第二次世界大戦→冷戦、という歴史の流れを考えると、チャペックの慧眼と人間の愚かさ加減を実感してしまうのですが、

チャペックが、「人間が自ら創り出したものによって滅亡に追い込まれる」ことを予見して警告していたことは確かだと思います。しかしこの作品でチャペックが伝えているのは、「自分さえ、自分の国さえよければいい」と自分たちの利益だけを守り広げようとしているうちに、潰し合いになってみんな滅びてしまう危険についての警告です。

科学技術の発展は素晴らしい、人類の叡智だと私は思います。電気のなかった昔に戻ることはできないし、インターネットのおかげで生き方も変わって、自分にとっては世界はより楽しいものになりました。そのかげで失われていくものがあって、もしも、この美しく魅惑的な生き物、オオサンショウウオがそういうものの一つだとしたら、まだ間に合うから、人間の良いところを、彼らと共存するために、守るために発揮したいと思うのです。。。